雀のしっぽ。

ひっそり生きている

錆びた釘で心臓を打ちたい

誰もが 私を置いて 幸せになってしまう

私がこの部屋の隅で うずくまって

壁越しの罵倒から耳を塞いでいる間に

 

誰かと手を取り合って

誰かと笑い合って

誰かと愛し合って

誰かと助け合って

私の知らない どこか遠い場所へ行ってしまう

 

きっと ここで何度も手を差し伸べられた

それを 私は何度も撥ね除けた

 

差し出された手を握り返す

その一歩の勇気もなかった 

差し出された手が幻じゃないと

そう信じる勇気もなかった

 

そして今も

 

誰かが無条件に救いの手を差し伸べてくれる

なんてことはあるはずがなくて

私は ああしなくちゃ こう生きなくちゃ って

自分を自分で救うために生きて

そうだったはずなのに

気が付けば この手は 私自身を絞め殺した

 

何かがおかしくなって

それが何か分からなくて

当たり前の事が出来なくなった

 

この部屋でうずくまったまま

手足は錆びて  心臓は腐ってしまった

 

働くことが出来なくなった

長時間電車にも乗れなくなった

いつ倒れるか分からない 外出が怖くなった

そんな自分の価値を肯定できなくなった

頭が悪いと自分を否定してばかりになった

 

死にたくて 生きたくて

死にたい自分を肯定出来なくて

インターネットに 偽物の私を撒いた

芽を出して花が咲いた 見てくれの良い私

そんな偽物がちやほやされるのを ここから眺めていた

 

もう自分だって忘れてしまいたい

 

1年半前に壊れた それっきり動かない

ガラクタの私自身のことも

撥ね除けた手の温もりも

そして 明日も明後日も また同じ夜が来ることも

 

夢現

 

月が綺麗でした

 

星が綺麗でした

 

いつも醜いのは 私だけでした

 

鏡の中の醜い姿を見たくなくて

下ばかり向いていたら

 

空は陰って いつの間にか 月も 星も いなくなってしまっていた

 

あなたの街の月は綺麗ですか

 

あなたの街の星は綺麗ですか

 

その空は 黒く 濁ってはいませんか

 

 

そうだとしたら

そうだとしても

 

なんでもいいや

 

 

夏は嫌いだ

 

暑いし   日差しが強いし 

それになによりセミがいるし  

 

あれは求婚のために 鳴いて いるというけれど

私には、7日後に訪れる死を恐怖して 泣いて いるようにしか聞こえない

 

だから 窓を開けて あの耳障りなジリジリが聞こえると
無数の「助けて」が聞こえてくるようで
耳を塞いでしまいたくなる

 

7日間 死から逃れようと必死に泣き続けたそれは

抗うも虚しく 抜け殻になって アスファルトに転がっている

 

何年も助けを求めることすら出来ないでいて

やっと声を発せるようになったと思ったら 死んでしまう

無惨で 無力で その抜け殻は気持ちが悪い

 

何も出来ずに死んで行く まるで 私の未来を見ているようで

とても気持ちが悪い

 

 

 

ポチ

 

 

君にまた会えるのを 僕はずっと心待ちにしていた

君はもう僕を覚えていないかもしれない

 

でも僕は 君を忘れた日は1日もなくて

君が好きな長い名前の花を見かける度

君と聞いた曲がテレビで流れる度

君の好物が店に並んでいるのを見る度

まだ隣で君が笑っているような気がして

くしゃっと笑うあの顔を探す

 

君が居なくなってから どれくらい経ったのだろうか

僕には広すぎるあの部屋で僕は

絶望した 真っ暗になった 空っぽになった

誰かに名前を呼ばれることも

誰かと外に出かけることも

何もかもがつまらなく億劫になった

 

君の寝息の聞こえない夜がこんなに長いことも

一人で食べる朝食がこんなに味気ないことも

義務的にこなす外出がこんなに退屈なことも

 僕はずっと知らなかったのだ

それはなんと幸せなことだったか

 

「ずっと一緒にいようね」なんて

そんな大切なことを容易く約束した

君にそう言われると僕はなんだか申し訳なくて

最後はどうしたって僕が君を置いていくんだと思っていた

そうしたら泣き虫な君はすごく悲しんでたくさん泣くだろうから

出来るだけ 一秒でも長く君の傍にいようとした

 

 

でも 君は僕を置いていってしまった

 

何日も 君が開けるはずのドアの前で 君の足音を待ちながら

もう君が帰って来ないことをなんとなく知っていた

どうしてかはわからない

でもどうしようもなく悲しくて

これでお別れなんだって そう理解していた

 

 

しばらくしてから 僕は引越しをした

 

あの部屋にいれば

またいつか君がひょっこり帰って来るんじゃないかと

心の隅で願っていた

それでも いつも君のいた場所が空っぽなのを見ているのは辛くて

少しだけ救われたような気がした

 

新しい家で 僕には新しい家族が出来た

お菓子の名前みたいな可愛らしい新しい名前を貰った

きっと僕は恵まれていた

それでも僕は 君がくれた 単純なこの名前が好きだった

それでも僕は 君と過ごした あの狭いアパートが好きだった

 

 

君は僕を覚えているだろうか

僕は目も鼻も悪くなってしまったけど

そこで君をみつけられるだろうか

そうしてもしまた会えたら

君が付けた名前で また僕を呼んでくれるだろうか

 

 

 

 

後悔しないための最善の生き方

「やりたいこと」があった。

 

自由に空を飛ぶこと。

裸足で地面をかけること。

 

「叶えたいこと」があった。

 

好きな場所で生きること。

好きな人と生きること。

 

たくさんの " hope " が " want "が

そこらへんに転がっていて

ひとつを拾おうとすれば 別のひとつを落として

私は落としては拾い 拾ってはまた落として

懲りもせず全てを手にしたがった。

そしてただ

手元の幸せが 指の隙間からサラサラと溢れていくのを見ていた。

 

水が掴めないように 砂が逃げるように

実体のない 恐怖が 希望が 現実が

私を騙して嗤っている。

 

いつだって正解を選べずに 夢物語に手をのばして

目が覚めたら いつも何も残っていないのだから

もう 何かを望むことは やめることにした。

 

手に入れたかった ガラクタも

貫きたかった くだらない信念も

解きたかった 錆びた鎖も

壊したかった この狭い檻の鍵も

 

何も無い 

 

何も居ない

 

たったひとつ 手元に残して

何年間の感情を葬って

 

光のない明日を目指して 土砂降りの中歩くのは

とても気分が良いだろう?

何にも得られない選択肢で命を落とすのは

とても滑稽だろう?

 

私はそれだって こんなこと望んだんだ。

 

 

 

 

 

 

のどあめ

朝起きると 喉が痛かった。

昨日、年甲斐もなくカラオケではしゃいだせいか

それとも風邪のひき始めか。

 

イソジンでうがいをして、家を出た

マスクはあんまり好きじゃない。

コンビニでのど飴を買った。

 

昔、楽しみにしていたデートの直前に風邪をひいて声が出なくなったことがあったっけ。

あの時もそう、こうやってコンビニでのど飴を買ったんだ。

 

銀色の包み紙を剥いて、口に放り込む。

のど飴のひんやりした舌障り。

噛み砕かないように軽く歯を立てる。

 

イヤホンを耳に詰め込んで 時刻表を見上げると

あ、雨が降ってきた。

 

「ごめん、傘入れて」

 

声が聞こえた気がして 振り返ると。

 

口の中で雨がパキンと音を立てて割れた。

薬の匂いがツンときて、涙が零ちた。

 

 

沼の底より

 

気が付いたら沼に足を取られていた

 

向こう岸の景色に欲を出して手を伸ばして

蓮の幻覚に魅せられて惑わされて

名前の知らない蝶を追いかけて

 

気が付いた時にはもう 抜け出せなくなっていた

 

おかしいな 

元いた場所が当たり前で普通の幸せだったのに

泥に染まって沈んでいくこの感覚がなんだか嫌いじゃない

 

沈んでいく私を 見ているだけの君 を見ているだけの私

きっと声をかけても 指で抗っても もう届かない

 

最初から

 

そう望んだのは 私の方だ